楽しくのんびり過ごすのにお勧めの曲です。全体で6分少々と短いのが玉に瑕ですが。
一般には「胎児の干物」という訳が定着しています。それは穏やかではない(笑)。実はちょっと違うんです。三つの楽章からなっていて、それぞれの楽章のサブタイトルを見ると、胎児というのが実際には海産物の「はらこ」、または「はららご」を意味していて、実際には食べ物の事を表しているということがわかります。サティは真面目(?)で美しい曲も書きますし、実際聞いてみると、「あ~この曲か」と気が付いたり、 BGM でよく使われたりもしています。一方この作品は BGM 的に用いられることはほとんどなく、どちらかというと遊び心に満ちた「聴いて楽しむ」曲といえるでしょう。
タイトルは以下のようになっています。
1.ナマコの胎児
2.無柄眼類の胎児
3.柄眼類の胎児
この中で2曲目と3曲目の違いがよくわかりませんが、2曲目は無柄眼類という眼に支軸がないので動かない生き物ということです。甲殻類と訳す向きもあります。一方、柄眼類は目に支軸があるということで要するにカニなどを意味しているようです。でもカニも甲殻類だったような…。
あとナマコの胎児というのがよくわからないんですが、これはナマコを干したものかもしれません。
曲はパロディ満載で、引用もあります。何より興味深いのは、楽譜の端々に書かれたセリフです。作曲者は、このト書きのようなものを演奏中に読んではならない(音読してはならない)と注意書きをし、「この指示を守らないと…」と穏やかなならぬ警告があります。おそらくサティがピアノ演奏して、友人たちが楽譜を覗き込みながら楽しく聞いたものと思います。
昔、高橋悠治のピアノの演奏に合わせて、作曲家の林光が音読しているコンサートをラジオで聴きました。曲調に関係しているものと関係していないものがありましたが、いずれも大変面白いものです。
第1曲のナマコは、ナマコっぽい(?)ゴロゴロした、音型の上にメロディーが乗っています。その中間部に書かれた指示「タバコがない!幸い僕は吸わないんだ」なんていうのは曲想には結びつきません。一方カデンツァのところで「歯の痛いナイチンゲールのように」などという部分は、何となくイメージがわきます。
第2曲などは全体がショパンのピアノソナタ第2番の第3楽章「葬送行進曲」のパロディになっています。中間部の美しい旋律は、どういうわけだか「シューベルトのマズルカの引用」とありますが、シューベルトはマズルカを作曲していません。
第3曲はおそらくカニだと思いますが、狩りの様子が描かれます。元気の良い音楽で中間部分には「獲物をおびき寄せるために」と称してゆったりとした部分もあります。
第1曲と第3曲に共通しているのは、コーダが異様にしつこいことです。笑えます。でも、ベートーヴェンの第5交響曲の終わり方もだいぶんしつこいですね。第5の方が一瞬終わったかな、と思うだけに余計しつこく感じるかもしれません。
朗読つきで録音している CDはないと思いますが、曲を聴いているだけでもなかなか楽しいものです。
この手の曲では他に「役人のソナチネ」という曲があります。クレメンティのソナチネ(ハ長調。練習曲として超有名)を丸々パロディにしたものです。こちらにもト書きがあります。以前は、「官僚的なソナチネ」と訳されていましたが、役人の一日を描いたもので、今では誤訳とされています。でも表記はそのまま変わらないんですよね。こちらは原曲の音符を上下逆さまにしたようなもので成り立っていたり、リズムはまんまだったりする部分が大半です。ネタ元を知っていれば10倍楽しめます。
いずれにしてもサティについては、とにかく曲が多いので、時々ゆっくりご紹介したいと思います。
【SACDハイブリッド】 Satie: Piano Music Vol.1 小川典子 (Classical) ¥2,471
ハイブリッドでこの値段なら安い方ですね。全集に取り組むようです。国内流通盤のほうが在庫は多いようですが、どうしても値段が高くなってしまいます。
定番の曲目が収められた正統派の1枚ですね。
サティと言えばこの人。5枚組でほぼ網羅しているような感じです。さすがにこれだけを聴き続けるのはきびしいと思いますが、気に入った曲を拾い聴きするのもよいかもしれません。
こちら、タワレコで紹介したのと同じものです。
2回目の全集からの抜粋版だそうです。紹介したCDいずれにも「役人のソナチネ」も含まれていますし、充分ですね。
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