ドビュッシーは時期も合って音楽の印象主義派ともいわれます。とはいえ、彼の後継者たる作曲家はあまり見当たりません。彼の音楽、特にピアノ曲は他の追随を許さず、模倣も拒絶しているようです。それでも響きそのものの美しさを目指す楽派がその後、現代にいたるまで続いてはいます。
「子供の領分」は娘のために作曲された美しいピアノ曲集です。演奏が比較的易しいのが特徴です。それでもなお、そこにはドビュッシーの音楽のエキスが吹き込まれています。
第一曲「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」(ミケランジェリ)
1.グラドゥス・アド・パルナッスム博士
「グラドゥス・アド・パルナッスム(パルナッソス登山)」という、誰の曲だったか非常に「たいくつ」な練習曲があります。これは、その曲を練習している子供の情景描写になっているところが非常に面白いです。最初真面目に練習曲を弾き始めますが、遊びに行きたいのでしょう、すぐに思いがさまよってしまい「のあ~ん」とした感じになってきます。親か先生から注意されたのでしょう、また真面目に弾き始めますが心はこの状況から解放されることへの願いでいっぱいです。最後はもう「やけ」になっているのでしょうか?「や~めた」という感じに終わるのが微笑ましいです。ドビュッシー自身はピアノが上手でしたが、少年時代の思い出というわけではないでしょう。
2.象の子守唄
象のぬいぐるみを抱いて眠る娘の心象風景でしょうか?重たい足取りでゆったりと象が歩くようなフレーズに続き、冒険しているような描写、そして静かに眠りに落ちてゆく描出は見事なものです。
3.人形へのセレナード
ドビュッシーは英語のタイトルもつけているのですが、フランス語では「人形へのセレナード」、英語題は「人形のセレナード」と微妙に違っています。単純な誤訳と思われますが、どちらを選択するかでピアニストの弾き方に違いが生じています。原題では人形に歌う娘のイメージですが、英語題では人形の歌うややぎこちないユーモラスなセレナードということになります。ピアニストがどちらのイメージで弾いているか、はっきり感じ取れるのがまたプロだなぁと思うところです。
4.雪が踊っている
これは「雪は舞う」でいいんじゃないの?と思うのですが、大体「踊っている」と訳されています。速く正確に弾くには少々の訓練がいるとは思いますが、比較的演奏容易な譜面でよくこれだけの情景が描き出せるな、と驚嘆させられます。しんしんと降り積もる雪が確かに踊っています。
5.小さな羊飼い
のどかで牧歌的な曲です。「亜麻色の髪の乙女」にも似ています。これも確か人形からのインスピレーションだったと思います。単旋律を多用した、遠くの世界に連れていかれるような思いがします。
6.ゴリウォーグのケークウォーク
ゴリウォーグがぎこちなくケークウォークを踊るという曲(何の説明にもなっていない)です。途中でワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」のモチーフが用いられているのが興味深いです。と言っても、始まるか、と思うとすぐ元のケークウォークに戻ってしまうのですが。子供が人形を乱暴に扱って踊らせている、といったところです。
ドビュッシー: 映像第1集, 第2集、子供の領分<タワーレコード限定> アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ ¥1,296
私が好んでやまないミケランジェリの演奏です。
2枚組です。スタンダードな演奏をお望みでしたらこちらをお勧めします。
良いCDは繰り返し販売される、という良い見本だと思います。
チッコリーニも素晴らしいです。ただし、「練習曲集」はやや特殊なので聴き手を選ぶかもしれません。タワレコでは試聴ができますのでご利用ください。
Amazonではパスカル・ロジェが見つかりませんでしたので代わりにゾルタン・コチシュをお勧めしました。
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