ヒンデミットというと、まず思い浮かぶのは交響曲「画家マチス」です。この曲はオペラからとられた三楽章の交響曲で非常に聴きやすい音楽です。その他というと・・・。
なんだかどれもパッとしないなというのが私のイメージでした。どこかへんてこで、かたくて、取っ付きにくい感じ。しかし、ある日FMラジオから聞こえてきたのは目の覚めるような美しい音楽だったのです。それが「葬送音楽」でした。「葬送の音楽」とか「哀悼の音楽」と訳されることもあります。ヴィオラ(またはチェロ)と弦楽合奏のための10分足らずの曲です。
5:15辺りからヴィオラならではの低音が弾かれた後、得も言われぬ美しい響きが。
YouTubeにはヒンデミット自身がヴィオラを弾いた演奏もアップロードされています。ふと考えてしまうことは、「ヴィオラを弾きたい」となぜ思うのか?という疑問です。ヴァイオリン、チェロとかフルート、クラリネット、オーボエ。トランペットにホルン、そしてピアノ。これら華々しい演奏曲目に事欠かない楽器を習得したいという気持ちはわかるのですが、ヴィオラ、チューバ、バソンやファゴット、コントラバス。みーんな目立たないではないですか。独奏曲も多くはありません。でも不思議なものでなぜか様々な志向の人が集まってオーケストラが成立してしまうのですね。
さて、ヒンデミットはこうした比較的脚光を浴びない(失礼)楽器を中心とする作品を多く残しています。ヴィオラにしても協奏曲もソナタもあります。なかなか重宝な作曲家です。やはり取っ付きにくいとお感じになられるかもしれませんが、私が改めて他の曲も聴いてみると不思議なことにそれほどでもないのですね。歳のせいでしょうか?(モーツァルトなんかもある程度の歳にならないと、なんてことも言われますね)。瞬間的に曲が出来上がるモーツァルトと違って、黙々と大工仕事をこなしていく職人のように作曲する姿が思い浮かびます。勝手な想像ですが。
そんな中、ひときわインスピレーションに富み、美しいとされるのが「葬送音楽」です。イギリス国王の逝去に際して作曲されたようですが、宗教感がないのがいいですね。悲しみ、敬意、追慕の想いに満ちています。
私は導入部と、ヴィオラならではの低音が弾かれるところからが特に好きです。中間部は少し速く、また熱を帯びています。曲の構成を武満徹も「弦楽のためのレクイエム」で参考にしたのではないか?というのも私の勝手な推測です。
そうはいっても比較的に演奏される機会は少ないので、ヒンデミット入門としてぜひ多くの人に聞いてもらいたいと思います。「画家マチス」だけではもったいないです。また、この曲をきっかけにヒンデミットの職人の手によるかのような作品にも関心を持っていただけるとうれしいです。
Hindemith: Viola Works アントワーヌ・タムスティ 、 マルクス・ハドゥラ 、 パーヴォ・ヤルヴィ 、 フランクフルト放送交響楽団 ¥2,294
試聴機のメンバーによる演奏です。ネットでも良さが伝わってきますね。
こちらは予約盤になります。これまでボックスセットで出ていたものから抜き出してきたようです。まだ少し先になりますが購入しやすくなりますね。
ヴィオラと言えばバシュメット。ヴィオラのパガニーニと言われる彼。なんとなんとの9枚組。「ヴィオラが好きだ!」「バシュメットに浸りたい」という方にはぴったり。弦楽四重奏やヴィオラに編曲したものも含んでいます。紹介した小品に対して器が大きすぎますが。
ユーリ・バシュメットの軌跡 [ ユーリ・バシュメット ] 2枚組でバシュメットを堪能できます。 |
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