これは元気を出すのに大変良い曲で、本当は簡素な造りではないのですがスッと心に入ってきます。ガッツポーズも出そうです。気分がふさぎがちな時、やる気が出ない時などにお勧めいたします。
シンフォニエッタは小交響曲という意味があるのですが、実際には「小」とはいいがたいです。演奏時間こそそれほど長いものではありませんが、第一楽章のファンファーレに始まり、終楽章に回帰するまで実に緻密に作曲がなされています。
また、ヤナーチェクはモラビア出身の作曲家ですが、現在で言えばチェコに含まれる地域で、民族的な響きも感じさせます。
第一楽章:ファンファーレ。ノイマン指揮、チェコフィルハーモニー管弦楽団。
第1楽章
金管楽器と打楽器のみによるファンファーレです。最初のメロディは何となく高校野球の応援団を思わせるような節ですが、すぐにハーモニーがつけられると土俗的な雰囲気は一変して非常にきらびやかなファンファーレとなります。荘厳で堅固な土台がまず築かれます。
第2楽章
速い木管楽器の民族的なパッセージで楽章が始まり、続いて弦楽器の引っ張るような旋律が続きますが、弦楽器と木管楽器が交互に前面に出て徐々に盛り上がっていき速度を落とし、程なくしてファンファーレの変奏がトランペットで吹き鳴らされます。曲の様相は洗練されたものに変わります。全体が徐々に静まっていきます。しかし木管楽器の一吹きで最初のフレーズに戻ってとても簡素に終わります。
第3楽章
この楽章ではトロンボーンが活躍します。最初に弦楽器が陶酔するような甘いメロディを奏で、木管楽器とのやり取りがあります。ここにトロンボーンが特徴的なリズムで割り込んでくるのですが、ふつうは他の楽器が受け持つような装飾的な音型をトロンボーンが受け持ちます。とてもユーモラスです。その後に出てくるメロディもトロンボーンがまず吹き始めます。そのうちトランペットも乱入してきて一つの山を構成します。木管楽器の速いパッセージからすぐに静かになります。
第4楽章
トランペットの独特のメロディから始まります。弦楽器が対旋律のようにそれを支えます。ここでも弦楽器と木管楽器の掛け合いが中心となってきます。チャイムも加わり、その後テンポを落とすのですが、最後は冒頭のテンポに戻ってあっさりと楽章を閉じます。
第5楽章
木管楽器のセンチメンタルなメロディを速い動きの弦楽器が支えます。クラリネットの高音域のメロディが何とも言えません。オーボエが絡み、中低音の金管楽器がそれを支えます。弦楽器の刻む速いリズムに乗って木管も速いパッセージを演奏し、そのまま盛り上がっていくのかと思いきや、少し静かになって木管のパッセージに呼応するようにトランペットが入ってきて、そのまま第1楽章のファンファーレへと突入していきます。今度は他の楽器によって装飾されているだけに一層きらびやかに響きます。金管の響きは長く引き伸ばされていき、弦楽器と木管楽器のトリルを伴った音型が素晴らしいです。そのまま祝祭的な気分を高揚させて全曲の終わりとなります。
鉄壁の布陣といえましょう。再版されたものです。良いものは残ります。手元にあるこのコンビの演奏はもしかすると幾分若い時のものかもしれません。低音をドンドンと鳴らさずに、高音域を響かせてきらきらとした輝きのある演奏と感じました。ティンパニは抑え目である一方、トランペットをはじめとする金管群が色彩豊かです。スタンダードな、といって平板・平均的であるという意味ではなく、普遍的で、おそらくヤナーチェクが望んだであろう演奏が繰り広げられます。この盤の演奏と印象が違ったらごめんなさい。ですが再版を繰り返していることは名盤たる証拠ではないかと私は思っています。
在庫は少なめのようですが、クーベリックも良い選択だと思います。同じチェコ・フィルがどんな色付けで演奏するのか興味があります。私が聴いているライブ盤はクーベリックがバイエルン放送交響楽団を振っているものです。そこでクーベリックは低音もしっかり出し、金管の輝きも素晴らしい演奏をしています。才気走ったところはなく、一層伸びやかで清々しいものを感じます。紹介しているこちらの盤は録音こそ古いものの歴史的価値のある演奏で、収録曲も多くて今特に買い得のようです。マルティヌーの二重協奏曲も入っていますね。ヤナーチェク以外はフィルハーモニー管弦楽団です。
音質を重視するならこちらでしょうか。SACDとしても聴けます。バックグラウンドは異なりますが迫力ある演奏を期待させます。私の手元にあるのはバルトークの「管弦楽のための協奏曲」とのカップリングのものですが、タワーレコードの説明によると「シンフォニエッタ」をセルは一度しか録音していないとのことなので同じ音源とわかりました。いくぶん遅めのテンポで曲が始まります。そのためもあるのでしょう、中低音部が途中はっきりと息継ぎをします。そのため、普通は「この曲は何拍子なんだ?」となりがちですが、割とメロディの構造がわかりやすい感じがします。といって間延びしているということではありません。細部に至るまで緻密な表現、突然誰よりも速いテンポで演奏する、計算されつくした構成、と聴くものを飽きさせない手腕はさすがです。