続けてバッハです。この曲集は、ハ長調の前奏曲とフーガ、次がハ短調の前奏曲とフーガ、嬰ハ長調の前奏曲とフーガ・・・、といった具合に24の調性すべてを使っています。それが2巻あります。
バッハ平均律クラヴィーア曲集No.1 聴き比べ
(ちょうど真ん中くらいからリヒテルの演奏が始まります)
しかし、このタイトルは誤解を招きます。「平均律」というと、オクターブを均等に12に分けた調律のように聞こえます。でもそれなら、どの曲も移調して演奏することができ、音高こそ違うけれども言ってみれはカラオケのキーを変えるようなものに過ぎません。
実は、本来の題名は「平均律」ではなく、「良く調律された」という意味があるのです。鍵盤楽器の調律には「ヴェルクマイスター」とか「キルンベルガー」とか色々あって、十二平均律とはいささかずれています。なぜこういった調律があるか、ここにこそ「ソナタ第1番イ短調」とか、調性名がついている理由があるのです。
実はオクターブを完全に均等割りしてしまうと、どの調に移調しても音高が変わるだけなのですが、全体に響きが濁ってしまうのです。それを解消するために、様々な調律法が考え出されてきました。代表的なものが上記のもので、どの調で弾いてもそれなりに美しく響くように設定されています。
均等割りでないということは移調すると雰囲気が変わるということになります。これらの調律でハ音(ド)を基準に調律するとします(大抵そうだと思います)。そうすると、ハ長調(白鍵のみ)では非常に透き通った滑らかな響きになる一方、嬰ハ長調(ド#)つまり黒鍵が増えると複雑な響きになります(単純化して言えばですが)。まあ、濁っているといえば濁っているのでしょうが、それなりに美しく響くところが「良く調律され」ていると言われる所以でしょう。
バッハはそれぞれの調性が持つ響きを考慮に入れ、すべての調を使っても良い調律なら一つで済みますよ、いちいち変えなくてもいいですよ。ということを証明して聴かせてくれます。それどころか響きの違いにぴったり合った曲を書いて、まさに鍵盤楽器音楽の極北へと私たちを招いているのです。
さて、しかしこれは聴いていて聞き分けられる人もいればあまりよくわからない、という人もいるでしょう。実を言いますと私もそんなに変化を感じ取ることができません。ただ、バッハは調に合わせて曲を書いているので、調性の違いの影響を知らず知らずのうちに響きの印象として感じてはいるのでしょう。
ロシアのソルジェニーツィンの著作の中に、調性の違いを色として感じる人物が登場します。いわゆる共感覚の持ち主なのでしょう。聞き分けられる人は決して少数派というわけではないと思います。
バッハはきらめくような明るい響きを生かした曲、晦渋に満ちた曲、跳ね回るような曲、深い思考に沈んでいくような曲など、スタイルも含めて様々な曲を作りました。ですから、何度聞いても飽きることがない、かの吉田秀和が「一生もの(リヒテルの演奏について)」と表現したのもうなずけます。私は結婚祝いに知人に頂きました。
さあ、どんな演奏が待っているでしょうか?
全巻、4枚組です。
こちらは第1巻のみとなっております。
もちろん他にも素晴らしい鍵盤楽器奏者は数多いますので、バナーから入って探してみてください。
こちらはSACDのみのようです。ご注意を。(2018/05/01現在中古扱い)
内容はタワーと同じでしょう。
はい、そこのチャレンジャーなあなた。グールドはいかがですか?こちらはSACDハイブリッドです。全二巻入りです。
平均律クラヴィーア曲集のことを、たくさん書き込んだウェブページを公開しています。「聖律の音楽」というタイトルです。「平均律」自体についても、不確定性原理の関係で、コメントしています。
この3月末(2019年)でgeocitiesがなくなってしまうので、新しいアドレスにしました。
http://wisteriafield.jp/wtc1/indexj.html
よろしくお願いします。
ありがとうございます。物凄い情熱を感じるページです。
音律の問題には正解といったものがないのでしょうね。だから奥深いのかもしれません。鍵盤楽器と違いヴァイオリンなどの音程が自由に変えられる楽器にちょっと魅力を感じます。ピアノも大好きですが。
ヴァルヒャの弾くチェンバロについても書かれていました。おそらくバロック・ビッチのことを言っておられると思いました。古楽の演奏に関しても様々な主張があって、こちらにも正解はないようですね。