ラヴェルにしては非常に重苦しさを感じる曲です。そして最後には力一杯に重圧をはねのけて、目もくらむような華々しさのうちに幕を閉じる感動的な音楽です。
題名が示しているように、ピアノ協奏曲ですがピアニストは左手だけを使って演奏します。それは第一次世界大戦で右手を失くしたピアニスト、ウィトゲンシュタイン(兄は有名な哲学者)の依頼によるものだからです。
ピアノが登場するのは2:09から。6:10、14:05からのソロはとても美しい。
曲の始まりがあまりにも晦渋に満ちているので驚かれるかもしれません。苦悩を感じさせるのは片腕を失ったピアニストに向ける熱いまなざしなのでしょうか?途中ユーモラスな行進曲風になる部分はありますが、全体に感じられるのは美と苦悩と、なんといっても勇気です。
楽章は分かれていません。全体が続けて演奏されます。
最初は低音のみのオーケストラで主題が演奏されます。それが次第に盛り上がっていき最高潮に達したところでピアノがソロで登場します。続いてピアノとオーケストラの掛け合いに入り、いったんは静まって美しいピアノソロが始まります。
テンポが上がり行進曲風になります。この部分のピアノは比較的やさしくメロディーだけを弾いています。でもそんなやさしい部分はごくわずかです。本当に片手で弾いているのか?と思わせる跳躍を見せたあと、オーケストラとともに再び高揚していきます。
再び興奮が冷めると美しくも複雑なピアノソロが聴かれます。とても片手で弾いているとは思えません。両手でも弾けるのか?と思わせますが、作曲者は両手で弾いているように聴こえるように書いたとのことです。少しずつオーケストラの楽器が加わっていき、ラストは勝利を高らかに歌い上げるようにクライマックスを迎えるのです。
この曲には慰めと励ましが共存しているように感じられます。命を削って書き、命を削って演奏する、とでも言えばよいのでしょうか?聴く側にもそれなりの心構えが要求されているようです。でも確実に元気をもらえる音楽です。
さて、この曲にはいくらか面白いエピソードが付いていて、これまで書いてきたことがひっくり返ってしまうのですが、書きます。
作曲を依頼したウィトゲンシュタインは、あまりの難しさに楽譜どおりに演奏せず、この曲の批判までしてしまったために、それ以来ラヴェルとは仲違いをしてしまいます。ちょっと根性なし…かな?せっかくの力作がもう台無し。一年ほど後に別のピアニストで楽譜通りの初演が行われました。
現在では両手の利くピアニストたちもレパートリーに加える名曲となりました。
ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調 左手のためのピアノ協奏曲 高雅にして感傷的なワルツ ¥1,728
あのブーレーズとツィマーマンの完全主義者タッグです。現代の演奏としては鉄板でしょう。
これは名盤。天才ピアニストと名指揮者の歴史的レコーディング。もちろんリマスター済み。
上記と同じですが、SACDハイブリッドなので対応機器をお持ちならさらに高音質で楽しめるでしょう。高いですけども。
残念ながらAmazonからはこれ一枚。タワレコで紹介したものと同じです。プライム会員ならお買い得ということで。内容は折り紙付きです。
紹介したCDはいずれも次回紹介予定のラヴェル作曲 ピアノ協奏曲ト長調を含んでいます。そちらの推薦盤もこれらと同じになるでしょう。
中にはこういった音楽が苦手な方もおられるようですので、試聴機(ヘッドフォンのアイコン)をクリックして、様子を聴いてみてくださいね。
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