スカッと癒されたいときに。ジャズ?クラシック? カプースチン:「8つの演奏会用練習曲」

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何とも堅い感じのするタイトルですね。最初にタイトルを見た時は「つまらない練習曲なのかなぁ」と思ったものです。しかしながらこのピアノ独奏曲、タイトルとは違って斬新かつスタイリッシュな名品なのです。一発ではまってしまいました。でもどう思われます?「最初の曲目はカプースチン作曲、8つの演奏会用練習曲から第一曲、前奏曲です」とアナウンスがあったら、な~んか堅苦しい感じがしませんか?でもピアノから流れ出す音楽は「なにこれ?ジャズ?楽しい!」と見事に良い意味で期待を裏切られること間違いなしです。

まあ英語で考えてみると「8 Concert Etudes」とそれなりのタイトルになります。エテュードといえばショパンの名作がたくさんありますしね。しかし素人の練習曲ではありませんよ、まったくこれは。
この8曲をそれぞれご紹介したいと思います。

第1曲 前奏曲。

いかがです?多少の落ち込みは吹っ飛んでしまうようでしょう?8曲からなるこの練習曲は「一体どこが練習曲なんだ!」と叫びたくなるほど難しいのですが、どの曲も聴いて楽しく、また癒し系も含まれているので「今日は今ひとつだったなぁ」と思うような時におススメです。

タイトルが示す通り、以下の8曲からなっています。

  1. 前奏曲
  2. トッカティーナ
  3. 思い出
  4. 冗談
  5. パストラール
  6. 間奏曲
  7. フィナーレ

試聴機で聴かれる前奏曲ですが、後半の一部ではアドリブが入っているように聴こえるかもしれません。ですがすべては楽譜に書かれています。速いテンポの曲からスローなものまでバリエーションに富んでいますがすべての楽曲の難度は相当に高く、ちょっとやそっとでは弾くことはできません。かく言う私も楽譜は持っているのですが撃沈しました。確かにそれまで学んできたクラシックの書法とは全く異なっていることもさりながら、指の回る速さ、アクセントを置く場所の奇妙さなどなど2小節続けて弾けず、フィナーレなどは指定のテンポでは1小節もまともに弾けないのでした。

第1曲「前奏曲」は試聴機で聴かれる通り、威勢良く始まります。これを第一主題とするならば比較的短く、すぐに第二主題に入ります。こちらの方が少し長めですがまた第一主題に戻ってきます。ここからがもう一度この繰り返しに入るのですが、即興演奏としか思えない変奏曲になっています。キー以外は殆ど似ても似つかないものですが、リズムの取り方など大変困難に思えます。そして第一主題を巧みに操って熱狂的なコーダに突入します。とてもエキサイティングですね。

第二曲の「夢」は、「僕の夢は・・・」ではなくて寝るときに見る夢ですね。曲そのものはスローテンポといってよいと思いますが、きらきらとしたさざめきが空から降る星のように細かな音を奏でます。いつかNHKで辻井伸行が弾いていました。すごい。とりとめのない夢のように曲想は盛り上がっては静まり、いつ果てるとも知れぬきらめきの中で深い眠りに落ちていきます。

第三曲のトッカティーナはお気に入りの曲です。小トッカータとでもいうのでしょうか、とても粋な曲です。こちらも第一曲と同じく普通のパターンで一通り演奏して、次にアドリブ風の演奏が始まります。カッコいいとはこういうことさ!とでも言いたげな作曲者の満面の笑みが目に浮かびます。

第四曲「思い出」は何とも不思議な曲です。スケール、つまり音階が速いけれども一定でないテンポでそこらじゅうを駆け巡ります。作曲者幼少期の思い出なのでしょうか?なにかふつふつと湧き上がってくる幸福感に包まれる感じです。最初は左手がゆっくりとしたリズムを刻んでいますが、途中左右の手の役割が入れ替わり、そのうち混然一体としてきて、あ~、きっといろいろ楽しい思い出があるんだろうなぁと感じます。暗い影がないのがいいですね。

第五曲「冗談」はジョークではなく、「からかい」とか言った意味で、いわゆるブギウギです。ノリにノッて弾く曲ですね。これはもうジャズのアルバムに入っていても何の不思議もない曲です。この愉快さ、痛快さは文章では何とも伝わらないですね。

第六曲「パストラール」はいわゆる牧歌、「田園」ですね。のどかな田舎をまぐさを積んだ荷馬車に揺られて進んでいくような印象です。ちょっと久石譲の「Summer」に似ています。メロディーは比較的単純につかめるのですが、伴奏のリズムが複雑かつ鍵盤の左右に飛び交うのでこれまた難しい曲です。とにかくこの人の曲の演奏は一聴した感じより、ぐぐぐんと難しいです。難しく聞こえますがそれ以上に難しいというか。

第七曲「間奏曲」もそう。ミドルスローなテンポで進む始まりは簡単そうなのになぜか弾けないように書いてあります。意地悪なんですかね、この人は。そうそう、作曲者のカプースチンはピアノの名手でもあるので自作自演を軽くやってのけます。だんだんテンポアップして、あぁ、これは「三度音程の練習曲だな」なんて思っていると最後あっけにとられます。そんな練習も必要なの!?

第八曲「フィナーレ」。楽譜を見ると何のことはない8分音符が並んでいるだけです。でもそれも楽譜を先に見ていたらの話。実はテンポが猛烈に速いのです。楽譜からは見当もつかないビートが飛び出してきます。これまで出てきた様々な要素が詰まっています。例えば最後の終わり方は「前奏曲」に似ています。他の曲のメロディーもちょこちょこ顔を出して、まさにフィナーレにふさわしい。堂々たる音楽です。

作曲者のカプースチンはクラシックの教育を受けている時にジャズの面白さに興味を持って、しばらくは楽団を率いてロシアを回っていたのだとか。ジャズバンドです。そのうちジャズの語法で様々な曲を作曲するようになりました。今一つ知名度が上がらないのはジャズでもクラシックでもないからでしょうか?彼のピアノソナタなどを聴くと、ジャズっぽさもあるのですがかなり前衛的な要素もあり、むろん超高難度。チャレンジする人も少ないのかもしれません。もちろん上手なアマチュアで弾きこなすつわものはいるのですが。

さて入手可能なCDは?


カプースチン:8つの演奏会用エチュード 作品40, ソナタ・ファンタジー(ピアノ・ソナタ第1番) 作品39, スイート・イン・オールド・スタイル 作品28, 変奏曲 作品41 ニコライ・カプースチン ¥2,571
基本は何といってもこの自作自演版でしょう。ほころびのない見事な演奏を聴かせてくれます。私の持っているのとはジャケットが違いますが、一度廃盤になって再プレスされたものでしょう。こういう録音は残っていくのでしょうね。


Kapustin: Piano Music / Marc-Andre Hamelin マルク・アンドレ・アムラン ¥1,717(セール価格)
こちらはクラシックのピアニストの中でも技巧派の名も高いアムランの演奏。ジャズ畑で長く過ごしたカプースチンとの違いに興味津々です。


自作自演集「8つの演奏会用エチュード」 カプースチン(ニコライ)  ¥2,357(Prime価格)
Prime会員ならTowerより少し安いです。

どちらの盤も収録曲はもっと多いですから楽しめると思います。音楽はジャズしか聴かないよ、という方にも聴いてほしいです。

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