このところ「名曲」というより「珍曲」が続きましたので(私はもちろん名曲のつもりで書いていますが)、いわゆる名曲をご紹介。リラックスできてエネルギーももらえるロシアからの名曲です。だから寒い冬にはぴったりなのかも…。
生演奏は高校生くらいの時に初めて聴きました。第一楽章は優しく気高い、第2楽章は薄暗さの中にも何とも言えない温かさをはらんでいて楽観的、第3楽章は思いっきりはじけ飛んだ民族的な面を前面に押し出したチャイコフスキーとしては珍しい楽章だと感じました。なんといっても彼はアカデミックな作風で、ロシア国民楽派とは一線を画していましたので。
ピアノ協奏曲でもそうでしたが、とても魅惑的なメロディーで始まるものの、そのフレーズはそれっきりでなんだかもったいないと思ってしまいます。そんな素敵な導入部から始まる第一楽章から印象を書いてまいります。
第一楽章:チャーミングな導入部です。そしてそれが大きく盛り上がって静まりかけたところでソロ・ヴァイオリンが入ってきます。そして有名な主題を演奏します。メロディーメーカーの面目躍如たる所ですね。こういった何でもないようなメロディーで心に訴えかけるものを生み出すのは並大抵の努力と才能ではないと感じます。さてソロはダブルストップ(二弦弾き)などを駆使して主題を盛り上げていきます。どこを切っても「甘~い」のですが、決して甘すぎず引き締めているところがさすがだと思います。金管楽器の刻むリズムの上を弦楽器群が第一主題を奏でるところなどは気品あふれる名場面だと思います。ソロは主題を変奏し始めますが、いや~、難しそうですね。演奏家が聴衆のために血のにじむような思いをして訓練した成果を楽しめる、ということは言い換えれば「私のために頑張ってくれたんだ」と勝手に思い込めば凄いことですね。長いカデンツァがトリルに帰結したあたりから静かにフルートが第一主題を奏でますがすぐソロに引き継がれます。このあたりの流れもよく計算されたもの。第二主題の生き生きした表情がここではひときわ際立ちます。活気あるオケとソロが協調しながらこの楽章は一層の高揚感のうちに終わります。
第2楽章:やや暗い出だしですがあまり重さを感じさせないのが素敵です。曲全体は優しさに包まれているよう。ロシアの風土や人々の暮らしまで目に浮かんでくるようではありませんか。大部分が大きな弦楽合奏のようになっています。木管楽器はひそやかに、金管はもっとささやかにしか登場してきません。そして静まり返っていくように思わせて、突然第3楽章に突入します。
第3楽章:切れ目なく演奏されます。いきなり激しいリズムで始まり、短いソロの後で本格的に民族的ともいえる激しい舞曲風のメロディーが演奏されます。低弦のリズムに乗ったさらに民族風なメロディーがチャイコフスキーにしてはやや泥臭い感じです。当時この楽章を酷評した批評家がいたようですが、この辺りがお気に召さなかったのかも。もっともロシア五人組に比べれば十分アカデミックなのですけれども。時にテンポを落としてメランコリックになったりもしますが、またすぐ元気を取り戻して前進、前身、また前進。オケとのコンビネーションも「協奏曲」はこうあるべき、というお手本ですね。エンディングはこれしかないでしょう、という終わり方。でも彼にしか着想できない「決まった!」感があります。
これだけ有名曲になると、名演奏も数々。好き好きと言ってしまえばそれまでなのですが、今回はハイフェッツと共に躍進目覚ましい日本の女流ヴァイオリニストからご紹介します。
これは下記の録音を含む10枚組(!)です。どんな曲が収録されているかは見てのお楽しみ。
そしてこれが試聴機に入っている録音です。SACDハイブリッドにしては安い、というのは今セール中だからのようです。
若き日の(まだ若いですが)みずみずしい演奏が素晴らしい庄司紗矢香。指揮者がチョン・ミュンフンというのもナイスです。この人の振るオーケストラはダイナミックです。
もはや不動の地位を確立したか?バックを務めるのは何とあのアバドとベルリンフィルです。彼女に限らず、同じ内容、ジャケットでもSACDであったり複数の種類が出ているので、ハイレゾ派の人は検索してみてください。私はいまのところプレーヤーがないので通常のCDで通しています。ハイブリッドのものもありますがSAではまだ聴いたことがありません。
ちなみに、ハイレゾ音源の場合はヘッドフォン、イヤフォンどちらもNGです。可聴域を超える音波を捉えることができるのは私たちの皮膚表面にあるらしいです。耳からではありません。もちろんヘッドフォンでもSAの方が良いのでしょうが、本当に大切なのはスピーカーとアンプです。最近はなかなか販売されなくなりましたね。オーディオブームが去ったのは残念ですが、やはり一番いいのは生演奏ですからねぇ。ただ名演にうまく当たるかどうかは何とも言えません。家に居ながらにして名演を聴けるのはとても贅沢なことなのかもしれません。
タワーレコードでは、チョン・キョンファの独奏によるCDがいくつも出ています。これも良い盤だと思います。