スティーブ・ライヒの世界-その5。肉声との新たな取り組み。ライヒ:「ディファレント・トレインズ」

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ライヒの初期の作品には人の声を素材にしたものが幾つかあります。肉声の短いフレーズをテープでループさせ、僅かずつ再生速度をずらして繰り返します。それにより徐々にずれが広がって、何を言っているのかは分からないか聞き取りずらくなりますが、ディレイやエコーの効果、また何らかのリズムが生まれてきます。
今ならサンプラーやPCでささっと作れそうな作品ですが、そこはコロンブスの卵、現在のミュージック・シーンにライヒがどれほどの影響をもたらしたか、計り知れません。

しばらく肉声から遠ざかっていたライヒが、再び新たな形で肉声を用いた音楽を作成し始めます。この度はインタビューに応じている人々の声から旋律が聞き取れる部分を抜き出して、弦楽器でそれをなぞり繰り返すという手法です。

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録音された汽車の音響と加工された汽笛が鳴らされ弦楽四重奏(録音されたものとライブ)が汽車を描写します。最初の言葉はライヒの家庭教師だった女性の「フロム・シカゴ」というフレーズです。

全体は3つのパートに分かれていて、第二次大戦前、大戦中、大戦後となっています。

大戦前、ライヒは家庭教師とともに列車に乗り、離婚した父母の間を行き来しました。当時ポーターとして働いていた男性のインタビューから切り出されたのは、汽車に対する愛着の言葉と、「1941年」へのカウントダウンです。家庭教師の見た「様々な列車」という言葉はイマジネーションを広げて、当時ライヒがヨーロッパにいたらユダヤ系として迫害を受け、状況は全く違い「異なった列車」に乗せられていたのではないか、とライヒは考えます。

大戦中、迫害を受けた人々のインタビューから抜き出された言葉もまた、旋律的であることが重視されています。それでも、テンポがゆっくりとなった曲の中で語られるのは、戦禍が個々の人々に及ぼした様々な形の弾圧です。経験者のインタビューの録音からある程度脈略のある内容が取り出されていることもあって、かなり重いパートとなっています。

大戦後、「戦争が終わった」「本当に?」、対話的に始まる第3部は開放感に溢れていると言いたいところですが淡々とした、まだなにものかに怯えているような雰囲気があります。それでも、小さな歓び、ちょっとした楽しみに幸福を見出す人々の姿を描いて弱音で曲を終えます。

文章にすると全体に重たいイメージですが、確かに明るいものではないとはいえ、ライヒ流のコントロールによって生き生きと躍動するリズムが中だるみすることなく一気に聴かせます。末尾は、スポットライトをあてた一輪の花のように素敵です。

汽車を表現する二つの弦楽四重奏の代わりに、弦楽合奏版もあります。私はまだCDで聴く機会がないのですが。こちらの方がよりダイナミックで汽車にふさわしいとの声も聞きます。

ですが、現在のところ弦楽合奏版は廃盤のようですね。あるいは店舗を探せばあるのかも。中古でよろしければAmazonで取り扱いがあるようですので、下のバナーからどうぞ。

紹介しているのはすべてオリジナル版で、以前紹介したパット・メセニーのエレクトリック・カウンターポイントを含む盤です。ポイントなどの兼ね合いで選んでいただければ。

 

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