スティーブ・ライヒの世界-その7。光を探し求めて。ライヒ:「砂漠の音楽」

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だんだんと陽が短くなり始め、肌寒い日もでてきました。あんなに夏の暑さに苦しめられたのに、やはり寒くて暗いのは苦手だなぁと勝手なことを思ったりします。そんな中、苦悩の内に一筋の光が差してくるような音楽を一曲。

ライヒ(そろそろ正しい発音、ライクとすべきかもしれませんが)のオーケストラと合唱のための作品です。最初期にはセリフが音楽に昇華されていましたが、パルスが重要な位置を占めるようになってからは、「声」が言葉ではない「音」として使われる作品に移行していきます(「18人のミュージシャンのための音楽」など)。それがこの作品では歌詞を持った「歌」が楽曲の中心をなしています。もちろんパルスも発声するのですが全体から見るとそれはごく一部です。

抜粋です。Iの終わり近くからⅢaが始まるところまででしょうか。

オーケストラの編成はかなり大きく、管楽器はほぼ4人ずつ、2人のティンパニと7人のパーカッション、2台のピアノはそれぞれ連弾するようになっています。弦楽セクションは3つに分けられ、中央、左右に振り分けられています。お得意のフェーズ・パターンを演奏している時、音が左右に移動するので聴き取りやすく、またウェーブのような不思議な感覚を生み出しています。

この曲の歌詞は、ウィリアム・カルロス・ウィリアムズの詩集「砂漠の音楽とその他の詩」に基づいています。ライヒはこの詩人の名前が「A-B-A」の対称形になっていることに関心を持ったそうです。それを反映して全曲が対称的な構成になっています。バートIからパートVまでありますが、内容的にはI-Ⅱ-Ⅲ-Ⅱ-Iという形になっており、ⅢはさらにA-B-Cの三つの部分からなっていますが、それも実際にはA-B-Aの形になっています。同じ数字、同じ記号の部分はほぼ同じ歌詞、同じ曲です。イントロダクションとフィナーレに相当する部分は若干異なっていて、特に最後の部分では突然パルスが途絶え「The light」が合唱で三度繰り返されて消え入りそうになるかと思いきや、「Call it what you may!」という叫びでクライマックスに達し、再びパルスのうちにフェードアウトします。非常に感動的です。

全体は切れ目なく演奏され、パートの変わり目でテンポもカクッと変わります。テンポの変化は一定の法則に則っているのですが、説明しずらいです。例えばパートIからⅡに移行するときは、最初8分音符だった拍の長さが次の部分では3連符(4分音符を3等分した)の音符一つ分になります。3:2の比率でテンポが遅くなります。逆に速くなる時には3連符が次のパートの8分音符の長さに相当することになります。2:3で速くなります。う~ん、わかりずらい。要はかなりきっちりとしたテンポ設定がされているということです。

冒頭はピアノに始まるパルスです。「六重奏曲」とまんま一緒の和音です。パルスが終わると3群に分けられた弦楽器セクションによるフェーズ・パターンが始まり、いよいよ歌に入っていきます。前述の通りライヒはウイリアムズの詩から歌詞を取っていますが、例によって繰り返しパターンが多いのでそれほど長い文章が引用されているわけではありません。例えばパートIでは「Begin my friend」という一節で始まるのですが、まず「Begin」の部分だけが繰り返されます。よく聴いてみるとさらに「Be」と「gin」が合唱の異なるパートに分けて歌われています。そこまで細切れにするか?とも思いますが「Be」に「gin」がかぶさってくる様には不思議なトリップ感を覚えます。その後は特に細切れはなく、「Begin my friend」が繰り返されます。この行が思いっきり引き延ばしてうたわれた後に次の行に進む、という流れになっています。その後は比較的普通に歌詞が消化されていきます。各行(あるいは意味の取れる最小範囲)が二回繰り返されています。

第Ⅱ部と第Ⅳ部では歌詞にフルートと太鼓が出てくるので、それが歌われる箇所では両楽器にスポットライトがあたっています。ややユーモラスな楽章です。第Ⅲ部のAとCでは、思わせぶりな警告が歌われ、曲も深刻な表情です。Bも緊張感をはらんだ曲で、テンポは一定のはずですがだんだんと勢いを増していくような、ちょっと不安げな印象です。Cではサイレンの音を模した弦楽器のグリッサンドが聴かれます。全くA=Cではないのですね。他の部分にもそれは言え、対称を保ちつつ僅かに変化があります。

第Ⅴ部はすでに書きましたが、第I部と同じ曲想ですがかなり違いがあります。歌詞が異なりますしメロディーも異なっています。第I部が「Begin」だったのに対し、第V部はフィナーレにふさわしく徐々に盛り上がっていきます。「光を!」と繰り返される部分は本当にじわーっと来てしまいます。

この曲を一言で言い表すとすれば「緊張と緩和」でしょうか?あるいは「不安と希望」?ライヒの作品がこの曲や「六重奏曲」以降、不協和音を多用するようになったことは社会のはらむ不安と切り離すことはできないでしょう。ライヒによると、彼が「砂漠」にイメージした事柄には、エジプトを脱出(エクソダス)した古代イスラエル人の放浪した荒野、あるいはまた核実験の行われた砂漠地帯といったものがあるそうです。サイレンの響きは核実験のイメージと結びつきますね。意味ありげな警告の言葉も預言のような面持ちがあります。最近の作品である「WTC 911」はこの作品の延長線上にあるとも言えますが(手法ではなく内容的に)、まだ「光」を希望させる分「砂漠の音楽」の方がカタルシスを味わえるのではないかと思います。「WTC」はあまりにも現実的過ぎて、本当は向き合わなければならないのでしょうけれども聴くのが結構辛いです。ただTVで見ましたが初演の際に曲が終わった後、ライヒと演奏者たちが満面の笑みを浮かべて握手し合っている様子を見たらなんだか拍子抜けしました。わからないでもないですが。なんだかねぇ。

砂漠の音楽…。個人的には、さみしい秋の夕暮れ時に聴いてぼんやりとした時間を過ごすのもいいなと思っています。


【CD】 Reich: The Desert Music / Thomas, Brooklyn Philharmonic マイケル・ティルソン・トーマス ¥1,762
出しておいてなんですが、「現在オンラインショップ取扱なし」だそうです。あえて出すのはこれが最初の録音だからです。実店舗ではもしかしたら見つかるかもしれません。自然でのびやかで明るい感じが好きです。


【CD】 Reich: Tehillim, The Desert Music / A. Pierson, Ossia, et al Ossia 、 アラーム・ウィル・サウンド 、 アラン・ピアソン ¥1,851
こちらは小編成バージョンですが、評価はかなり高いものでした。ティルソン・トーマスに比べてテンポ変化がくっきりしています。初めて聴くとちょっと驚くかも。


【SACDハイブリッド】 Reich: Three Movements, The Desert Music クリスチャン・ヤルヴィ 、 ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団 ¥2,736
聴いたことがないですが、タワーレコードで在庫ありは今これだけです。「スリー・ムーブメンツ」の際に紹介いたしました。売れ残っているのかと思えば、ライヒ絶賛の演奏とのこと。SACDの再生機があれば是非入手したいところです。ちなみにヤルヴィはあのヤルヴィ一家の末っ子だそうです。


Desert Music ~ Steve Reich (作曲), その他 価格色々
海外ではまだ新品で販売が続いているようです。さすがはアマゾン。


The Desert Music スティーヴ・ライヒ ¥800
MP3ダウンロード版です。せめてCDの音質が欲しいところです。


Desert Music Tehillim ~ S. Reich (アーティスト) 価格色々
こちらも海外からの新品販売。


Steve Reich: Tehillim / The Desert Music Alarm Will Sound  ¥ 1,500
音質にこだわりなければダウンロードでも。


Three Movements the Desert Music Hybrid SACD, SACD, Import ¥2,504
SACDで是非聞いてみたい1枚。


Reich: The Desert Music – Three Movements クリスチャン・ヤルヴィ ¥1,500
こちらはダウンロード版。上記いずれのダウンロード版も、Amazon Music Unlimitedに加入していれば聴き放題。月¥780、年間¥7800を安いとみるか高いとみるか。ハイレゾ音源とかなら金額に見合うのでしょうか?

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